導入事例

社員の行動特性可視化によって科学的根拠に基づく採用と人財活用を実現した日揮ホールディングス

社員の行動特性可視化によって科学的根拠に基づく採用と人財活用を実現した日揮ホールディングス

優秀社員との対話でみえてきた採用基準の問題点。
真の優秀人財を採用するために日揮ホールディングスが取り組んだ活躍する人財の可視化プロジェクトをご紹介します。

※本取材は2020年7月に実施しました。内容は取材時のものです。

日揮ホールディングス株式会社

担当部署名

グループ人財・組織開発部 人財開発チーム

事業内容

国内における各種プラント・施設のEPC事業および保全事業

業種

プラントエンジニアリング

従業員数

7,607名(2020年3月31日現在 連結)

タレントマネジメント課題

業務への適応力が高く、多様性に富む魅力的な人財を、将来にわたって採用する。
面接官の勘や経験によらない客観的な面接評価の仕組みを導入する。
多様な人財を採用するための新しい採用基準を作る。
採用活動を短期に終えるため効率的な選考プロセスを設計する。

導入したタレントマネジメントソリューション

入社10年目以上の社員にタレントアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施
社員アセスメントデータを分析し、社員の傾向を把握
分析結果に基づく採用プロセス設計支援(面接評定表の改善、面接官トレーニングの実施)

得られた成果

職種ごとの行動特性と活躍している人財の行動特性が明らかになった。
採用選考の合否判定の信頼性が高まり、選考を効率化できた。
社員の行動特性を可視化したことにより、問題が浮き彫りになり人事課題が明確になった。
マネジメント層の人や組織に対する関心が高まり、社員の多様性を活かそうとする意識が芽生えた。

目的/課題

プラントエンジニアリング業界は、韓国企業、中国企業の参入でコモディティ化が進み、厳しい競争環境にありました。人財は特に重要な競争力の源泉です。当社では「業務に対する適応力が高く、多様性に富む魅力的な人財」の獲得を方針に採用活動を続けてきました。また、入社後もこの方針に基づいた人財育成を行ってきました。しかしながら、この採用と育成の活動は人事と現場管理者の「勘と経験」によって支えられており、科学的な根拠に基づく採用基準・育成基準、選考プロセスや面接手法、研修内容やOJTプログラムは存在しませんでした。
優秀な人財を採用するには、優秀な社員を知らなければいけません。当時の担当者はこう語ります。「私は現場に足を運び、たくさんの優秀な社員と積極的に対話しました。そこで気付いたのです。今まで採用面接で重視していた人財要件と実際の優秀社員の特徴は違う。話せば話すほどその違和感は大きくなっていきました。採用面接では「リーダーシップ」「チームワーク」を評価していましたが、これらの能力に長けていなくても大きな成果を生み出し、周囲からの人望が厚い社員はたくさんいました。」
もう一つの違和感は、採用面接の経験の中で生じました。「面接基準である「リーダーシップ」「チームワーク」に定義が示されておらず、面接官によって評価の視点はバラバラでした。リーダーシップを人望で評価する人、影響力で評価する人、責任感で評価する人のように面接官は好き勝手に面接基準を定義して自分の好みの学生を合格にしていました。」
データ分析に基づく妥当な採用基準を持つことと、採用基準を誰にでもわかるように定義すること。この二つが求められていました。

採用基準を改善するきっかけとなった2つの違和感
・今まで採用面接で重視していた人財要件と実際の優秀社員の特徴は異なる
・面接官によって面接基準「リーダーシップ」、「チームワーク」の定義が異なる

導入/経緯

社員のパーソナリティを役職、等級ごとに把握するため、タレントアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施して、結果データを集計・分析しました。
タレントアセスメントに日本エス・エイチ・エルのOPQが選ばれた理由は、グローバルに認知されているツールであること、科学的な手法で開発されており、品質に関するデータが開示されていること、人事部員で実施したトライアル受検の結果の主観的納得感が他のツールより強かったこと、の3つでした。パーソナリティの個人差を客観的なデータで把握することが期待されました。

OPQが選ばれた3つの理由
 1.世界中で知られており、使われているアセスメントツールであるため。
 2.科学的な開発と開発データが開示されているため。
 3.トライアル受検の結果が納得感のあるものだったため。

アセスメントの対象者を入社10年目以上にしたのは、業績、能力、特徴の個人差がはっきりするのに10年かかると判断されたためです。社長からの働きかけで、多くの社員が受検し、統計分析に十分なサンプル数が確保できました。
分析では、役職・等級ごとの特徴を明確化することに加え、多様な人財がいることを検証するため、パーソナリティタイプ別の社員数を集計し、優秀社員はどのタイプに何人存在しているかを調べました。これらの分析結果をもとに人事部内で議論し、採用基準が完成しました。さらに、多くの面接官や現場マネジャーに興味を持ってもらうため、分析結果に関する説明会が開かれました。

成果

社員全体の特徴として「問題解決力が高い」という結果が得られたため、「問題解決力」を採用基準としてました。一方、これまで重視してきた「チームワーク」は職務遂行能力とあまり関係がないことが判明しました。「問題解決力」型人財が多くいる集団に「チームワーク」型人財が入ってくることのメリット・デメリットについて、既に発生した人事上の出来事に照らしながら有益な議論が行われました。
職種、役職、等級ごとの差異も明らかになり、採用以外の人事施策を考える材料となりました。OPQによって社員のポテンシャルが可視化されたことで、部門マネジャー、プロジェクトマネジャーが人や組織により強い関心を持つようになり、上司部下の相互理解が進み、多様な部下の持ち味を活かそうとする意識が芽生えました。

激化するグローバル競争を勝ち抜くため組織体制を強化するジェイテクト。
タレントアセスメントを用いた経営人材の発掘と育成の取り組みをご紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。内容は取材時のものです。

株式会社ジェイテクト

担当部署名

人事部 人事企画室 企画グループ

事業内容

ステアリングシステム、軸受、駆動部品、工作機械、電子制御機器などの製造・販売

業種

製造業

従業員数

49,933名(2020年3月 連結)

タレントマネジメント課題

グローバルに活躍できる経営人材の発掘、育成
現在の業績と行動評価だけではなく、上位職におけるポテンシャルを加味した登用審査の実現
複数事業部門で、横串を通した人材評価制度の構築

導入したタレントマネジメントソリューション

管理職及び管理職候補者へのタレントアセスメントの実施(タレントセントラル:知的能力テストVerify、パーソナリティ検査OPQ、意欲検査MQ)
管理職のコンピテンシーモデリング (マッピング、データ分析)
OPQによる自社独自の管理職適性尺度の開発

得られた成果

管理職としてのポテンシャルを勘案した科学的な登用検討が、できるようになった。
どのような特性を持つ人材が管理職として活躍するのかを、データで明らかにすることができた。
事業部門独自の人事施策にもデータ活用が広がった。

目的/課題

ジェイテクトは、軸受メーカーの光洋精工と工作機械メーカーの豊田工機が合併し、2006年に発足した会社です。ステアリング、駆動、軸受、工作機械・メカトロなどの多様な領域でナンバーワン製品・オンリーワン技術を保有しているグローバルメーカーですが、グローバル企業としての組織基盤や体制が整っていませんでした。自動車関連事業を始めとして各事業ともグローバル競争は激化しており、事業をリードする強い経営人材の発掘育成が喫緊の課題でした。
 一方で、これまでの管理職登用は各評価実績を中心に登用しており、「複雑化する社会のニーズに応え、事業をリードする管理職として相応しい資質を持っているか」という点を踏まえた登用ができていないという課題がありました。

導入/経緯

「管理職としての資質」を測定するアセスメントツールの選定にあたって、予測妥当性の高さやグローバル対応(多言語で実施可能、世界中の比較データを持つこと)、育成施策への展開の容易さなどの観点で検討がなされました。グローバル対応ができる海外のアセスメント会社も検討した上で、アセスメントツールの品質の高さと日本での活用支援体制が整っているという点からSHLのアセスメントツール「タレントセントラル(知的能力検査Verify、パーソナリティ検査OPQ32、モチベーション検査MQ)」が選ばれました。
登用審査の導入前に、現管理職に対してタレントセントラルを実施し、第一線で活躍している人材の特性をデータで明らかにしました。全社共通の価値観「ジェイテクトウェイ」との対応関係も整理した上で、管理職の人材要件定義を行いました。
アセスメント結果から自社独自の管理職適性得点を算出し、各事業部門に共有することで、登用検討に客観的なポテンシャル情報を組み込む事ができるようになりました。

成果

事業部門に関わらずジェイテクトの将来を担う管理職の人材要件を明確化でき、科学的手法を用いた測定の仕組みを構築できたことが成果でした。この取り組みをきっかけに、これまで目的毎に異なっていた新卒採用から人材育成に関わる全てのアセスメントツールを一本化しました。これにより、各人事施策で比較可能なデータを入手・蓄積することができ、横断的にタレントマネジメントを改善していくことが可能となりました。
また、各事業部門で独自に行っている人材育成施策にもSHLのアセスメントが活用されるようになり、人材データの活用が活発になったのも大きな成果の一つです。

導入事例

ジョブ型人材マネジメント制度を推進する、NECのジョブマッチング採用。

ジョブ型人材マネジメント制度を推進する、NECのジョブマッチング採用。

組織と個の対等な関係の構築を目指して人事エコシステムを変革し続けるNEC。
採用ではジョブと応募者とのマッチングをさらに進化させました。

※本取材は2024年7月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

日本電気株式会社

事業内容

ITサービス事業、社会インフラ事業

業種

電気機器

従業員数

単独 22,210名、連結 105,276名、2024年3月31日現在

インタビューを受けていただいた方

松尾 敬信 様

日本電気株式会社
人材組織開発統括部 プロフェッショナル

インタビューの要約

時代に応じた価値を提供し続けるために、組織と個人が対等な「選び・選ばれる関係」の構築を目指す。
ジョブ型人材マネジメント制度の下、新卒採用もジョブ型に。職場受け入れ型インターンシップを拡充。
挑戦したい職種に文理問わず応募できる形に変えたことで、応募者数は増加し、従来であれば応募がなかった層を惹きつけることができた。
今後もリクルーター制度の変革やマッチング方法の見直しなど引き続きジョブ型マネジメント制度を進化させていく。

ネットワーク、IT、AIの技術の強みを軸に、時代に合わせた価値を提供する

私は、大学卒業後、他業界を経験後、2019年にNECに入社しました。現在は新卒採用チームのリードとともに、全社の文化変革を推進するカルチャー変革統括部も兼務しています。

NECは1899年に日本初の外資系合弁企業として設立されました。安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指すことをPurposeとしています。

NECは「ネットワーク」「IT」「AI」の三つのテクノロジーを用いて、国や企業、地方自治体など様々なお客様に対してソリューションを展開しております。「ネットワーク」領域では、海底ケーブル事業や宇宙との通信、「IT」領域では量子コンピューティング、「AI」領域では顔認証に代表される生体認証、日本語生成AIなどの活用があります。

ネットワーク、IT、AIの技術の強みを軸に、時代に合わせた価値を提供する

ジョブ型人材マネジメント制度における採用

当社の人材戦略は、会社としての「適時適所適材」と個人の「キャリア自律」を実現し、「選び・選ばれる」関係の構築を通じて社会価値を創造し続けることです。今年度から全社員にジョブ型人材マネジメント制度を導入していますが、そのためには人事のエコシステム全体を変える必要があり、2018年頃から人事制度や働く環境をスピーディーに細かく変化させていきました。採用活動では、2018年からキャリア採用を強化しています。2023年度の新卒採用と中途採用の比率はおよそ1:1で、あわせて約1,200人の方に新たに仲間に加わっていただきました。また、適時適所適材を実現するための施策の一つとして、NEC Growth Careersという社内公募制度を拡大し、社内で様々なポジションを募集しています。

新卒採用を変革する施策として、ジョブマッチング採用への変革とインターンシップに注力しています。インターンシップはテーマ別(部門別)に学生を受け入れる職場受け入れ型として、およそ150のテーマを用意し、学生が興味を持った領域にチャレンジできる環境を構築しています。今年度は約1,000名の学生を受け入れる予定です。

新卒採用のプロセス全体を見直し、ジョブ型採用を導入

従来は、技術系の職種は理系学生を対象とした学校推薦による部門別採用とし、営業・スタッフ職や一部のSE職は、自由応募による文理不問の採用活動を行っていました。つまり、職種により応募できる範囲に制限がかけられていた状態でした。昨今の学生は、文系学生でも個人的にプログラミング知識を身に着けている方もいらっしゃったり、多様な選択肢の中で自由に企業を選択したいといったニーズもあり、当社が選ばれ続けるためには、応募方法や、文理といった専攻に関わらず、挑戦したいと思った職種に応募できる仕組みとすることがベストと考え、プロセス全体を見直すに至りました。これにより、文系学生でも、専門的な理系知識を必要としない技術系の職種に応募をすることができるようになったり、学校推薦でなくとも技術職に応募をすることが可能となりました。制度導入前は応募者が減少するのではないかと心配もありましたが、ふたを開けてみれば応募者が増加し、一部の職種については修士課程の学生の応募が増えるなど、ポジティブな変化がありました。企業が選択肢を提供することを応募者はポジティブに捉えたのだと思います。また、従来であれば別業界に行くような専門性の高い応募者が「その職種だったら受けてもいいかな」と、NECを選ぶことが増えたと感じています。

新卒採用のプロセス全体を見直し、ジョブ型採用を導入

ジョブマッチング採用の継続的な改善で、人材戦略を実現する

今後の課題はたくさんあります。まずはリクルーターによるフォローの強化です。部門と職種を詳細に分けて募集をするジョブマッチング採用では、きめ細やかなフォローが必要となりますが、同時にマンパワーが必要となり、十分にフォローが行き届かない可能性が高まります。そのため、現在のリクルーター制度を大きく転換しなければならないと考えています。また、営業職の部門別採用への切り替えも大きなテーマです。その実現にはジョブと個人の志向性とのマッチング精度を高めつつも、学生の期待値と企業側の期待値の調整が極めて大切だと考えています。仮にマッチング精度を高めるために各ポジションに求められるケイパビリティを詳細に設定した場合では、当社であれば数百ポジションのジョブディスクリプションを一時期に一斉に公開し、学生はその中から1つのポジションを選択し応募しなければなりません。しかし、近年の学生は配属ガチャへの警戒感を抱きつつも、スピード感を持った就職活動を行いたいと考えていることが現実だと捉えています。例えば、社会課題解決のためにアフリカ諸国へテクノロジーを活用したソリューションを提供したいと考えているけれども、その国がケニアなのか南アフリカなのかは就職活動時点では決まっていないケースがほとんどです。そのため、企業は学生の期待値に応えたポジション設計と情報開示が必要となり、あまりに細かすぎると、逆に選ばれなくなる可能性もあるため、営業職の部門別採用をどの粒度で実行するかについては、市場の動向なども見極めた上で検討しなければならないと考えています。

その他にも、インターンシップのさらなる強化など、引き続き変革を推進していかなければならないと考えています。

日本エス・エイチ・エルは漠然とした相談にも丁寧迅速に対応してくださり、感謝しています。今まではインターンシップと本選考の参考情報としてアセスメントツールを使用していますが、今後はアセスメントデータの活用と選考プロセスを変革することへの積極的な提案を期待しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

横山 武史

10年前、東京でのキャリアをスタートしたとき、最初に担当した企業の一つがNECでした。昨年、数年ぶりに担当に復帰して、松尾さんとやり取りをしたとき、日本の伝統的な大企業という印象が一変しました。NECが実行してきた「ジョブ型人材マネジメント制度」や「キャリア採用強化」、「NEC Growth Careers」などを通じて、確かに変革が進んでいると感じました。また、インターンシップの強化や、AIの利用を含めたマッチング方法の見直し、さらには部門側の工数削減など、様々な変革が推進されています。今後も変革を続けるNECの力になれるよう、全力でご支援していきたいと思います。

導入事例

三井物産の「科学的採用」を支えた日本エス・エイチ・エルのアセスメント

三井物産の「科学的採用」を支えた日本エス・エイチ・エルのアセスメント

感覚的な判断が支配する人事の世界に、科学的な目線を導入する第一歩。
「面接員の主観・評価傾向」をデータで可視化する三井物産の取り組みを紹介します。

※本取材は2020年7月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

三井物産株式会社

事業内容

金属資源、エネルギー、ヘルスケアなどの分野における多種多様な商品販売と各種事業の展開

業種

卸売業

従業員数

5,676名 (連結従業員数45,624名)(2020年3月31日現在)

インタビューを受けていただいた方

清水 英明 様

三井物産株式会社
人事総務部人事企画室 マネージャー

インタビューの要約

主観的な面接評価に対する課題意識があり、面接員の「評価の目線」を科学的・定量的に可視化することに挑戦した。
学生と面接員へのアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を行い、面接員の評価傾向を分析した結果、面接員ごとに固有の評価傾向(評価のクセ)が浮き彫りになった。
適切な評価を行えるように面接員トレーニングを拡充し、面接手法の改善に成功。
今後の目標は、「人事にデータを使う」ということを、人事総務部の施策に浸透していくこと。数字や明確な根拠に基づく、科学的なタレントマネジメントを推進していきたい。

「なぜ合格?なぜ不合格?」科学的じゃない採用の世界に危機感。

私は大学で農学を勉強しており、大学卒業後、青年海外協力隊としてアフリカで果樹栽培指導員として活動し、その後、大学院でアフリカの農家に関する調査研究をしました。三井物産に入社し、食料部門のチョコレート原料などのトレーディング、シンガポール駐在時の戦略企画業務、再び食料部門の乳製品のトレーディング・事業投資などに従事していました。学生向けのインターンシップに現場社員の立場として協力したことが契機となり、当時の採用担当の室長から「人事総務部に来て採用を担当しないか」というお声がけをもらい・・、といった流れで人事に異動してきたという経緯です。

人事に来て初めての採用面接を終えた夏。採用って“科学じゃない”なぁと思いました。この学生はなぜ合格?なぜ不合格?これって科学的に説明できるのだろうか、何に基づいて判断しているのだろうかと。人事の世界は感覚的に判断している部分が多く、面接員の主観に基づいて意思決定されるところに危機感を持ちました。ちょうどその時、前任者が進めていた日本エス・エイチ・エルのパーソナリティ検査OPQによる人材可視化プロジェクトを引き継いだので、彼の蓄積してきた知見をどうにか使えないだろうかという気持ちもありました。

まずは面接員へのトレーニングが必要と考え、研修内容を作りこんでやってみたはいいものの、結果としては従来の傾向に変化はありませんでした。2年目の採用面接でも、私のモヤモヤは残りました。

「なぜ合格?なぜ不合格?」科学的じゃない採用の世界に危機感。

面接員の「主観」は数字にできる!採用から科学的人事への第一歩。

このままじゃいけないと思っていた矢先、日本エス・エイチ・エルからある分析事例についてのダイレクトメールを受け取りました。その分析というのは、面接員の評価傾向をOPQで定量化・可視化するというもの。「これ、使える!」とスイッチが入りました。どのように面接員の評価傾向を可視化するのかを尋ね、自分で分析してみたところ、面接員の主観や評価傾向が明らかになり、これはすごいことになりそうだと思いました。まずはインターンシップに参加する学生を選ぶ面接で試してみました。面接参加者のOPQの各因子得点と面接評価点を分析してみると、予想通り面接員毎の「主観」の傾向が出たので本格的に動き出しました。

この取り組みに日本エス・エイチ・エルのアセスメントを用いたのには、いくつかの理由があります。日本エス・エイチ・エルの主催する勉強会に頻繁に参加していたこと、グローバル展開していること、継続的に面接員トレーニングを依頼していたこと。また、重要なのは相手の価値につながるかどうか、こちらが何を売りたいかではなく、相手が何を求めているかが第一、という私自身が営業時代に大事にしていた価値観を言葉にせずともわかってくれる。それが日本エス・エイチ・エルに色々と相談している理由です。

三井物産に必要な人材を採用する、集中的な面接員トレーニングに成功。

面接員の分析によって得られた結果は2つあります。一つは、面接員個々の評価の可視化。それぞれの面接員がどのような学生を合格にする傾向があったか。言わば個々の主観の数値化です。もうひとつは、三井物産の面接全体の評価傾向の可視化。全面接員の評価を通じて、どのような学生を合格にする傾向にあったかです。これらは面接評価点とパーソナリティ検査OPQの各因子得点との相関関係を分析することで検証できました。

三井物産に必要な人材を採用する、集中的な面接員トレーニングに成功。

最初にこの傾向をつかんだので、インターンシップ選考の時に構造化面接を導入し、着目すべきパーソナリティ因子について深堀をする設計にしました。その結果、評価傾向の波形が、意図した通りに変化しました。つまり、面接員の評価傾向は数字にできるし、面接の設計によってある程度コントロールできる、ということです。

そこで当社の求める人材はどういう人材か、求める人材を選抜するためにどのような面接を行うべきかを再検討し、面接員トレーニングを作り直しました。まずは当社社員として必ず必要となる、ある一つの側面に焦点をあてて1次面接をしようと面接員に説明しました。加えて面接員に過去3年分の自分の面接評価傾向を見せ、自分の主観の傾向や見逃しがちな点について意識づけし、本選考を実施しました。その結果、願った通りの結果となりました。

もう一つの企みは、データに基づく人事施策への意識醸成。

私にはもう一つの企みがありました。「人事に数字を使う」という意識を、現場社員である面接員や人事総務部全体に醸成することです。こういった取組が、数字や明確な根拠に基づく科学的なタレントマネジメントをするべきだという意識醸成につながる第一歩にしたいと思っていました。面接員が普段仕事をする現場でもそういう考え方が浸透するのは大事なことですよね。人事施策はデータに基づいて行うものだという雰囲気を作るつもりでやっていました。

今後のタレントマネジメントの進め方についてですが、まずは各自が脳内に持っている、人に対する印象や記憶を、できるだけ客観データに変換して蓄積していきます。あるポストの候補者を探そうというとき、上司の直感だけで「あいつだ」と決めてしまうと、情報範囲が限定的になってしまう。頭の中の情報を客観的なデータとしてアウトプットして、そのデータを使いながら配置を検討すべきです。候補者として世界各国で採用された人が同じように並び、比較され、よりポストに見合った人が配置される、そういうタレントマネジメントが理想です。

頭の中の情報をアウトプットすることは今回の分析と繋がっています。主観的な面接評価傾向を客観的な数値に置き換え、より良い方向へ最適化していく、そういった取組をグローバルタレントマネジメントでも実現したいですね。

もう一つの企みは、データに基づく人事施策への意識醸成。

今、私は次世代の人事総務システムプロジェクトを担当しています。このプロジェクトには国内の人事給与システム再構築とグローバルタレントマネジメントという二つの柱があります。これまでは日本で採用された社員が中心だった人材情報の可視化を海外で採用された人材にも拡げ、その人材データをもって適材適所を検討できるようにプロジェクトを進めています。ちなみに、グローバルタレントマネジメントについての問題意識はシンガポール駐在時の経験によって形成されました。現地で採用された優秀な社員は三井物産でのキャリアに限界を感じていました。これでは本当の適材適所ではないですよね。また、会社が今後目指す方向であるグローバルマーケットにおいては、多様な人材のポテンシャルを最大限に活用する必要があります。今はまだこれらを推し進める仕組みが十分とは言えません。

グローバルタレントマネジメントに関する日本エス・エイチ・エルへの期待として、人材アセスメントにおいて蓄積するデータ・分析手法・結果の活用について、ぜひアドバイスが欲しいですね。

次世代の人事・総務システムプロジェクト・二つの柱


  • 国内の人事給与システムの再構築
  • グローバルタレントマネジメント

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 課長

横山 武史

清水さんから面接員の評価傾向の可視化について話をいただいた際、私は評価傾向をとらえた後、その結果をどのように具体的な選考に活用するかが重要ですと申し上げました。すると、データそのものを選考に用いるのではなく面接員の評価を適切な方向に導く指標としてデータを活用できるのではないかとおっしゃいました。そうであればと、私はOPQの分析方法と注意点をお伝えし、今まで当社が行ってきた面接員ごとの評価傾向分析や面接評価構造分析の事例を紹介しました。もちろん分析業務を当社でお受けすることもできましたが、清水さんがご自身でデータを扱うほうが仮説検証を素早く繰り返すことができると思いましたし、清水さんもそれを希望されていました。その後の分析は順調に進み、分析結果を面接員のトレーニングに活用したいというご要望をいただきました。
分析結果を面接員の評価改善につなげる清水さんのアイデアを具現化する面接員トレーニング開発に携わらせていただけたのは我々にとって有意義な経験でした。どうもありがとうございました。
現在進行中のグローバルタレントマネジメントにおいてもSHLグループの知見と情報を駆使してお力になりたいと考えております。

コンサルティング

オリジナルWebテスト

SHLのもつ様々な適性テスト科目、尺度を組み合わせて、貴社オリジナルの適性テストや結果リポートを開発します。

オリジナルwebテストとは?

テスト科目や結果リポートデザインなど、ニーズに応じてゼロから作り上げるWebテストです。自由度が高く、用途に応じて複数のリポートを作成できます。選考のみならず社内の人事施策でも活用できる設計にすることも可能です。また、応募者管理システムとテストを連携させてテスト運用の手間を大幅に削減したり、「自社適性」や「定着性予測」など、お客様の社内分析結果をもとに独自の指標を結果リポートに盛り込むこともできます。

※連携できない応募者管理システムもございますので、当社までご相談ください。
※仕様確定~納品まで、一定の開発期間が必要になります。

導入シーン

自社独自の適性を予測したい

データ分析で社内のポジションごとに人材要件定義を行った結果を、オリジナル尺度として帳票に出力することが可能です。自社への適性値が一目で判別できます。

面談や配属時の参考資料に

人事側の資料だけでなく、受検者向けのフィードバック資料や「配属用」「フィードバック用」など利用場面に応じて必要な尺度や表現を盛り込んだリポートが可能です。単なる採用選考ツールではなく、タレントマネジメントの一環としてテストを活用できます

テスト運用の様々な手間を省きたい

応募者管理システムを利用している場合、テストの受検者登録をせずマイページ上に受検ボタンを表示したり、受検結果データをシステムに反映するなど、テスト実施の工数削減が期待できます。

※連携できない応募者管理システムもございます。連携可否、連携の範囲については当社までご相談ください。

お問い合わせ

ご不明な点がございましたら、担当コンサルタントまたは「お問い合わせ」よりお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ

導入事例

「育成する昇格プログラム」と「ライセンス制度」を取り入れた、Jストリームのマネジャー育成。

「育成する昇格プログラム」と「ライセンス制度」を取り入れた、Jストリームのマネジャー育成。

動画配信サービスへのニーズ急上昇を受け、ビジネスチャンスに対応するため人事制度もアップデート。
Jストリームのマネジャー育成の取り組みをご紹介します。

※本取材は2021年8月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社Jストリーム

事業内容

(1)ネットワークシステムにおける、動画データ及び各種情報の提供サービス業
(2)ネットワークシステムを利用した会員情報管理、商取引、決済処理に関する受託業
(3)デジタルコンテンツ、出版物の企画・制作・販売及び賃貸業
(4)ネットワークシステムに関するハードウェア・ソフトウェア・付帯サービスの企画、開発、運営、制作、販売、輸出入・賃貸及び代理店業
(5)広告・宣伝に関する企画・制作及び代理店業
(6)1から5に関連するコンサルテーション、調査、分析、研究等

業種

情報通信業

従業員数

単体313名 グループ594名(2021年3月末時点)

インタビューを受けていただいた方

田中 潤 様

株式会社Jストリーム
執行役員 管理本部 副本部長兼人事部長

インタビューの要約

コロナ禍において動画サービスへのニーズが急上昇。大きなビジネスチャンスと様々な環境変化に備えるため、人事制度全般のアップデートと人材育成の体系化を図る。
マネジャー育成の一環として、半年間のマネジャー教育を組み込んだ「育成する昇格プログラム」と、組織マネジャーのライセンス制度を導入。
研修は、リモートワークにおける人間関係構築の場も兼ねる。月1回、自由参加型の交流型研修を実施。
今後は、各本部が推進する独自の人材育成施策への支援と、社員のキャリア支援にも取り組んでいきたい。

動画配信事業に到来した大きなビジネスチャンス。 会社が次のステージに移るべき時期がきた。

私のキャリアは大手食品メーカーでの業務用原料の営業職からはじまりました。当時は営業が天職だと思っていましたが、29歳で人事に異動。人事の仕事は、企業をまたいだ共通の課題意識について情報交換し、互いに学び合える点が面白く、採用から人事制度設計まで様々な人事業務を担いました。その後営業子会社の役員を経験したものの、人事としてのキャリアに戻ることを求めて46歳で転職。2社目で10年ほど人事責任者を務め、縁あって今の会社に入社しました。


このコロナ禍で、我々の予想を超えて、急速に動画サービスが活用されるようになりました。Jストリームにとって大きなビジネスチャンスですが、同時に受注キャパシティの問題や、コンペティターの台頭といった脅威も発生します。会社全体が変わらないと、今後の大きな変化に対応できません。ステージが変わるときが訪れたのです。会社が変わる際には、経営が明確に方向性を示し、様々なサブシステムがそれに対応していく必要がありますが、人事は経営における極めて重要なサブシステムです。人事が半歩先を意識しながら、経営と一緒に変化すべき大事な時期だと思いました。

長らく抜本的には手を入れられていなかった人事制度全般のアップデートに着手しました。また、体系的な人材育成制度を入れ、最初の柱としてマネジャー育成のテコ入れをしました。マネジャーが人を育てるからです。これまでマネジャー向けに一律の研修は行っていませんでしたが、知識やスキルといった武器を提供せずに、ただ「頑張れ」では成り立ちません。マネジャーの仕事はどんどん複雑化する傾向にあるので、彼ら・彼女らに適切な武器を提供するのは会社の義務です。

マネジャーの「無免許運転」は危険。 「育成する昇格プログラム」と併せ、マネジャーのライセンス制度を導入。

マネジャーにあたる等級に昇格するためには、各本部の申請に対し、業績を参照し、執行役員以上が全員で審議して決議します。丁寧なプロセスですが、データやロジックは特にありませんでした。そこで今回、マネジャー候補層の育成の仕組み化をしました。

組織を持たないスペシャリストを含むすべてのマネジャーについて、昇格タイミングの半年前に各本部に候補者の申請をいただきます。その後、候補者には通知をし、半年間マネジャーに昇格するための育成プログラムを提供します。その結果、最終的に審査して、昇格する人を決議します。選別する昇格プログラムではなく、「育成する昇格プログラム」です。候補者を申請する際に、各上司はその人の課題を提出します。それも幹部が共有して、育成を見守ります。育成プログラムは、外部の講座への参加、アセスメント試験、人事部の主催する研修への参加などで、研修でのパフォーマンスを参考にして最終的に審査が行われます。

マネジャーの「無免許運転」は危険。 「育成する昇格プログラム」と併せ、マネジャーのライセンス制度を導入。

次に、組織を持つマネジャーに対してはマネジャーのライセンス制度の導入を行いました。組織をマネジメントするには、プレーヤーの業務とは違う能力が必要です。マネジメントについて学んだ人のみがライセンスを取得でき、部課長になれます。初年度の今年は既存の全マネージャーに対して実施しましたが、具体的には、①チームを動かすということ、②一対一のコミュニケーション、③仕事の生産性向上の3つを対象として、研修を行います。ライセンスは3年更新にして、3年後にまた異なる研修を受けていただきます。当然、新しくマネジャーになる人も、研修を受けていただく必要があります。管理職の「無免許運転」は危ないですからね。あわせて、部下評価をするための研修も、①目標設定②中間面談③評価の仕方④フィードバックの4段階に分けて行っています。

リモートワークでのコミュニケーションの希薄化を補うのも、研修の役割。 「楽しかった」と思える研修が、人の学びを促進する。

近年採用数を増やしており、現在コロナ禍以降に入社した社員が全体の2,3割を占めます。彼ら・彼女らにヒアリングをすると、部署の人や業務の関係する人とはオンライン会議で接点が持てるが、その他の人間関係が広がりにくいとのこと。確かに、従来のように出社時にたまたま出会うとか、飲み会で一緒になるといった機会は生まれにくくなりました。既存社員同士は関係性を維持できるが、新しく入社した方が人間関係を構築するための対策は必要です。しかし、とってつけたようなイベントを開催しても仕方がない。我々は、研修を人間構築の場にしようと考えました。

そこで、マネジャーに特化した研修の他、誰でも手を上げれば参加できるような研修を毎月行うようにしました。基本的に交流型の研修ですが、雑談に終始してはもったいないので、参加しやすく興味を集めやすいテーマを毎回決めて、半分くらいの時間は皆でディスカッションするような構成にしています。たとえば、直近ではストレスマネジメントをテーマとした研修を行いました。参加してくれたある管理職の方は、「人の喜びは学びと交流ですね」と感想をくれました。学びが喜びになれば学習が自走しますので、人事部としても大変喜ばしいことだと思います。

気を付けている点は、非常に多忙な中、時間を割いて参加してくれる社員の期待を裏切らない研修にすること。特に、研修は「楽しかった」と思えるものであることをモットーとしています。楽しみながら前のめりに参加をするほうが、学びがあります。人事部でファシリテーションを行う場合も、それを意識しています。

今後ですが、具体的なところでは研修の効果検証を行う必要があると思っています。現状ではアンケートなどで反応を見ていますが、今後は一定の規模で様々なサーベイを行い、人材育成にデータを活用していくことも検討したいと思っています。日本エス・エイチ・エルは採用での支援が中心ですが、何かアイデアがあればぜひご提案いただきたいです。

人材育成の分野で今後行いたいことは、各本部内の独自の人材育成の支援。人事部は、ベーシックなスキル・態度の教育を中心に担っていきます。業務直結のスキルに関しては、本部内で教育プロジェクトを立ち上げているところもありますので、各本部が独自性をもって人材育成を行うために、人事として情報提供などを通じて支援したいと思っています。

最後は、社員のキャリアの支援。私自身も関心の深いテーマですし、社内のニーズもあります。メンバーからのキャリア相談は、個別性が強くマネジャーも苦労する傾向があります。そこに対して、人事部として何か取り組みをしていきたいなと思っています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

深津 寛

「育成する昇格プログラム」という取り組みは、コンサルタントとして新たな視座を得ただけでなく、一個人としても共感を覚えるものでした。育成しながら昇格へ導くという考え方は、人的な制約の中で変革を迫られる多くの組織に示唆を与えてくれるものです。
インタビューの中で、「キャリア支援を今後のライフワークとしたい」というお話をされていたのが強く印象に残っています。根底にある、社員一人一人と親身に向き合いたいという田中さんのお気持ちがとてもよく伝わってきました。今後も様々な人事課題の解決のためお力になる所存です。

「新しい楽しさ・豊かさを お客様に発見していただけるモノ造りを」を経営理念とするサッポロビール。
変革を推進する経営リーダーを継続的に生み出す人財育成の仕組みづくりに取り組みました。

※本取材は2023年8月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

サッポロビール株式会社

事業内容

ビール・発泡酒・新ジャンル・ワイン・焼酎などの製造販売、洋酒の販売、他

業種

食料品

従業員数

約2,400名(2023年5月)

インタビューを受けていただいた方

小林 志野 様 小山 祐介 様

サッポロビール株式会社
人事部 キャリア形成支援グループ グループリーダー 兼 サッポロホールディングス株式会社 人事部 (写真右)
サッポロビール株式会社 人事部 キャリア形成支援グループ 兼 キャリアサポーター (写真左)

インタビューの要約

人事制度改革に伴い、サクセッションプランへの課題意識が高まり、サッポログループ内で先駆けて仕組みづくりに着手。
将来の経営者に求める要件を明確化し、次の経営者候補を対象にアセスメントを実施。
結果のフィードバックから、戦略的配置、社外研修への派遣、継続的な1on1によって対象者を育成。
今後も継続的な改善を行い、グループにも展開していく。

次世代の経営人財候補を育成するサクセッションプランを構築する。

私達は、人事部キャリア形成支援グループに所属し、人財育成やキャリア開発の支援がミッションです。サッポロビールの行動規範である「自分のキャリアは自分で切り拓く」という人財育成ビジョンにそって、経営人財育成に取り組んでいます。

2020年の人事制度改訂により、支援型のマネジメントをキーワードとする様々な施策を開始しました。その1つ、「人財育成会議」では、半期に1回各部署の役職者が一堂に会して、メンバー一人ひとりの強みや育成課題を話し合い、育成方針を決めています。従来、各事業会社の社長に経営リーダー候補を年に一度確認していましたが、組織としての体系的な育成施策はなく、経営全体で共有することもほぼありませんでした。変化の激しい時代、次世代の経営人財候補にも「人財育成会議」と同様の取り組みが必要という課題意識が高まり、将来的にはサッポログループ全体での取り組みも視野に、まずはサッポロビールにおいて経営人財育成の仕組みづくりに着手しました。

次世代の経営人財候補を育成するサクセッションプランを構築する。

要件定義とアセスメントの実施により、コンピテンシーポテンシャルを可視化。

具体的には、8つのステップで実施しました。ステップ1は全体構想の検討。年2回の経営人財育成会議を軸とし、対象層を喫緊の課題である次の経営者候補としました。会議体の委員長を社長、委員長代行を人事担当役員、事務局を人事部長、人事グループリーダー、キャリア形成支援グループリーダーが担当します。当時の人事担当役員はサクセッションプランへの課題意識が強く、この取り組みを強く牽引してくれました。

ステップ2は人財要件の策定。経営人財に求める要件の明確化のため、役員全員で他社事例やSHLから提供された情報などをもとに様々な議論をしました。最終的にサッポロホールディングスで既に策定されていた経営人財に求められる6 要件を採用しました。数年前に作成されていますが、検討の結果、有効な要件であると判断しました。

ステップ3は選抜プロセスの策定。まず候補者案を人事部で作成し、役員一人ひとりと個別に検討を行い、第一回目の経営人財育成会議で共有し、最終的な候補者を決定しました。

ステップ4はアセスメント実施。ステップ3で決定した候補者に対し、SHLのタレントセントラルでパーソナリティ検査とモチベーション検査を実施しました。外部アセスメント導入の目的は、2つ。1つ目は候補者の自己理解促進です。これまで社内の指標のみだった評価指標から、世間の同等職務レベルのデータと客観的に比較することで、より成長を支援できると考えました。2つ目は経営や人事が、候補者の顕在化されていない行動特性やモチベーション傾向を把握し、より適切な配置・育成・登用に繋げることでした。SHLコンピテンシーと当社の経営人財要件との紐づけも行い、アセスメント結果からコンピテンシーの可視化ができるようになりました。

本人に育成計画をフィードバック。成長を促すために異動や外部研修を実施。

ステップ5はフィードバック。各役員から、アセスメント結果と経営人財育成会議内で話された各候補者の育成計画を本人にフィードバックしました。以降は経営人財会議の合間に定期的に1on1を実施して、継続的な成長支援をしています。フィードバック実施にあたり、日本エス・エイチ・エルに依頼して事前に役員向けのフィードバック研修も行いました。アセスメント結果をよく理解するために、役員も全員アセスメントを受検しています。

ステップ6は戦略的異動。経営人財育成会議では、候補者を育成するための経験や配置案が話題に出てきます。異動は別のセクションが担当していますが、定期異動では前年の経営人財育成会議の内容を踏まえた、大胆な異動が行われたと感じました。

ステップ7は外部研修派遣。ステップ6の戦略的配置とほぼ同時並行に行いました。経営人財育成会議で議論し、必要と判断した人には、適切なプログラムを選定して研修に派遣しています。

本人に育成計画をフィードバック。成長を促すために異動や外部研修を実施。

最後のステップ8は対象者層の拡大です。初回である2021年は次の経営者候補を対象に1年間実施してきましたが、2022年は次の次の経営者候補を対象とすることにしました。2年目はステップ3からのサイクルを、もう1回転行いました。
今年で3年目ですが、今後もこの年間サイクルを確実に回し改善していくことが重要だと感じています。また、次の経営者の計画的な育成はサッポログループの共通課題ですので、サッポロビールの取り組みで上手く行っている部分を他の事業会社に役立てていただけるように、協力していきたいと考えています。

エス・エイチ・エルのコンサルタントには、当社の要望を聞きながらいろいろなご提案をしていただきました。ウェビナーを通じた他社情報の提供や、個別の情報交換会のセッティングなど様々な面でのサポートもありがたかったです。グループ企業への横展開や新入社員のオンボーディングなど、新たな始まった取り組みも引き続きご支援いただきたいと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

清水 智昭

今回のお取り組みはサクセッションプランニングを新たにスタートされる企業様にとってガイドラインとなる好例です。会議体の発足からアセスメントフィードバックの一連のプロセスに加え、実際の異動配置や研修派遣など具体的な施策が展開された点は特筆すべきポイントです。重要なのは「ボードメンバーの巻き込み」と「人財に関する対話機会の創出」です。会社のボードメンバーが自部門の管轄を越えて、次世代を担う人財をどのように創出していくか対話することが、施策実施までのプロセスにおいてキーポイントであったと感じています。次世代リーダーの戦略的な発掘/育成は多くの企業様での喫緊の課題であると思います。手始めに、一度膝をつきあわせて「次の担い手」を話し合う。すると自然とそれがサクセッションプランニングの入り口になるのではないでしょうか。

課題・テーマから探す

データ分析

人材データを分析し、タレントマネジメントの課題抽出や問題解決、改善をサポートします。

人材を定量的に把握する

人材に関連するデータを集め分析することで、効果的にタレントマネジメントを行うための知見が得られます。分析によって組織・人材における課題や高業績者のコンピテンシー等が明らかになるため、採用、配置、育成、組織開発などの人事施策を改善できます。 ご要望に応じて、分析対象の選定、目的変数・説明変数の検討、分析手法の採択、分析作業、分析結果の活用をサポートします。

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能力開発

アセスメント情報を元に、社員一人ひとりに最適な能力開発やリスキリングの機会提供をサポートします。

科学的に能力開発とリスキリングをサポート

アセスメントにより、受検者の能力開発に適した職務と環境、強みと弱み、好む学び方などの情報が得られることで、社員一人ひとりに最適なリスキリングの機会を提供できます。アセスメント結果は本人や上司へのフィードバックを通じて、能力開発課題と目標を明確化し、行動計画を作り、本人に前向きな行動変容を促します。アセスメントの実施、専門家によるフィードバックの実施、社内でフィードバックを行うためのフィードバックトレーニング、コンピテンシーと研修プログラムとの関連付け、ラーニングマネジメントシステムとの連携を提供します。

能力開発に役立つサービス

会社として求める人物像をより明確化したいという問題意識を抱えていたイムラ封筒。
採用から育成までをつなぐ人材要件定義のお取り組みについての事例を紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。事例記事は取材時のものです。

株式会社イムラ封筒

担当部署名

人事部人事課

事業内容

1. 封筒・袋等の紙製品、文具等の製造・販売、
2. 不織布・フィルム等を素材とする封筒、袋類等の製造、販売、
3. 印刷物やダイレクトメールの企画・制作、封入、封緘、発送・保管及び情報処理業務の受託、
4. 広告代理業務、
5.コンピュータや周辺機器の販売、ソフトウェアの開発・制作、販売及び保守管理

業種

パルプ・紙

従業員数

868名(2020年1月末現在)

タレントマネジメント課題

会社として求める人物像をより明確化したかった。
採用、育成、ジョブローテーションが戦略的に行われていなかった。

導入サービス

人材データ分析とインタビューによる営業部門の人材要件定義を実施した。
営業部門の全社員にパーソナリティ検査OPQを実施して、人事評価とOPQの各因子得点との相関分析を行った。加えてハイパフォーマーに対してインタビューを行った。これらの結果を統合して営業部門3区分(上級、管理、一般)の人材要件を定義した。

得られた成果

人材要件を採用基準として活用することで、面接精度と面接官満足度が向上した。
現有社員の特徴を把握できたことで戦略的な人材育成施策を実行できた。
キャリアビジョンの提示、キャリア開発支援を行うための準備が進んだ。エンゲージメントとパフォーマンスの向上に向けての土台ができた。

目的/課題

イムラ封筒は、採用、人材育成、ジョブローテーションを行う上での方針や目標を明確にするため、会社として求める人物像をより鮮明にしたいという問題を抱えていました。
採用面接では、面接官は自身の判断基準によって評価するため、評価のバラつきが散見されました。人材育成においても、各職種、年次、階層の社員に対して目指すべき人材像、開発すべき能力、課すべき研修を明示できず、社員本人のキャリア意識や上長の育成力に依存した人材育成となってしまうことがありました。
ジョブローテーションについても、状況対応型の運用になりがちで、各職務の経験を能力開発に活かすためのより戦略的な運用が必要な状況でした。
このような状況下で、人事部は求める人物像の明確化を重要課題と位置付け、実行のための準備に入りました。

導入/経緯

人事部内での議論を進めていく中で、社内の視点だけではなく、第三者の視点を入れて人材像を作っていくべきとの結論に至り、日本エス・エイチ・エルに声をかけました。人材要件作成の経験が豊富であること、ベンチマークとなる人材データを豊富に保有していることを条件にコンサルタント会社を選定しました。
当初は、全社共通の人材モデルから各階層、各職種に至るまでの人材要件作成を考えていましたが、議論の末、営業部門の人材要件定義からはじめることにしました。最も業績向上にインパクトがあり、比較的短期間で効果が得られると判断したからです。また、ソリューション営業の定着が中期計画にも掲げられていました。
具体的な取り組みとして、営業職の職位を上級、管理、一般の3つに分け、各ポジションについて人材要件を定義しました。調査方法は、パーソナリティ検査OPQを用いた人材データ分析とインタビューを用いました。営業部門の全社員を対象に、OPQの各因子得点データと過去2年分の人事評価データの平均値との相関分析を行い、職位別の高業績者特徴を明らかにしました。インタビューは、各職位のトップパフォーマーに対して、ビジネス環境の予測と戦略、各職位に求められる役割期待や望ましい行動をテーマに、日本エス・エイチ・エルのコンサルタントが行いました。これらの結果を統合して、職位ごとのコンピテンシーモデルを作成しました。

成果

まずは、このコンピテンシーモデルを採用に活用しました。新卒採用で活用できるよう、採用用のコンピテンシーとして整理し、この採用基準にそった面接官訓練を行いました。その結果、評価のブレが軽減しただけではなく、面接官が応募者としっかり対話するようになり、より詳しく応募者を知ることができるようになりました。面接官から評価がやり易くなったと高評価を得ることができました。
また、OPQデータの取得により、現有社員の特徴を客観的にとらえられたことも大きな成果でした。この取り組みによって得られたコンピテンシーモデルに基づき、若手の能力開発、部長と課長を対象とした次世代リーダーとしての意識強化を行いました。今後人事制度を改善するための有益な情報も得られました。

このタレントマネジメント施策を通じて、人事部は新たな目標を設定しました。経営陣と危機感を共有し、高い熱量で頑張る社員を増やすことです。社員にTo doを指示する組織から、To beを提示する組織への変化を目指します。キャリアビジョンを見せ、キャリア開発を支援し、エンゲージメントを向上させ、現場の活性化とパフォーマンス向上を促進していきます。