人材要件定義支援
特定の職種やポスト等の人材要件を定めるために、アセスメントを用いたデータ分析や経営者やキーポジションの方にインタビューを行います。定量的なデータと定性的なインタビューの情報を統合し、人材要件定義を作成します。今後必要とされる自社独自の人材要件とコンピテンシーのマッピング支援も行います。データ分析ではオリジナル尺度の作成も可能です。

サクセッションプランとは
サクセッションプランとは、将来組織のリーダーを担う人材を計画的に発掘、育成、選抜する仕組みです。経営トップや事業責任者など、組織の持続的な成長に欠かせないポジションにおいて、誰が役割を引き継ぐのかをあらかじめ定めておくことで、不測の事態にも備えられると同時に、戦略的な人材育成にもつながります。
サクセッションプランの必要性
サクセッションプランの必要性が世界中で高まっている主な理由は二つあります。一つ目は経営環境の不確実性が高まり、予期せぬリーダー交代が組織の大きなリスクとなっているから。二つ目はリーダー人材の獲得競争が激化し、自社内での育成が重要になっているからです。加えて、社会の価値観が多様化していることで、経営リーダーに求められる要件が急激に変化していることも影響を与えています。
ハーバードビジネスレビューシニアエディターのエベン・ハレル氏が行った研究では、退任するCEOの後任をすぐに見つけられない企業は平均で18億ドルの株主価値を失い、社外から採用されたCEOの平均報酬は社内出身のCEOの平均報酬よりも320万ドル高いことが述べられています。
サクセッションプランを行うべき組織
今すぐにでもサクセッションプランに着手すべき組織はどのような特徴を持っているのでしょうか。以下の6つのいずれかに該当する企業にとってサクセッションプランは重要課題と言えます。
サクセッションプランの進め方
次に、サクセッションプランの進め方についてです。サクセッションプランは以下のステップで構成されます。
経営層や人事が中心となり、経営戦略と連動した組織の将来像を描き、サクセッションプランの対象となるキーポストを決めます。キーポストには経営層や事業トップだけではなく、企業にとって必要不可欠な重要ポストを含める必要があります。キーポストが決まったら、各ポストについて後継者候補の有無を確認し、現状と将来像の人材ギャップを明確にします。
従業員のなかから後継者候補をリストアップし、アセスメントを実施します。アセスメントを行うためには事前に各キーポストの人材要件を定義しておく必要があります。人材要件を定義するにあたって考慮すべき要素は、実績、コンピテンシー、ポテンシャルの3つです。実績は、業績、職務経験、保有資格、研修歴など今までの職務成果に関連する情報です。コンピテンシーは発揮された能力や行動特性です。定期的に行われる上司評価や360度評価によって得られる情報です。ポテンシャルは資質や潜在能力と呼ばれる保有している能力や才能です。仕事場面で顕在化していないことがある個人属性のため、アセスメント(認知能力測定、パーソナリティ測定、モチベーションリソース測定など)を使って測定する必要があります。
アセスメントによって選抜された後継者候補に対し、個々のスキルや経験のギャップを明確にし、それを埋めるための具体的な育成計画を作成します。例えば、戦略的視点を高めるためのプロジェクト参画、戦略的な異動による実務経験、メンタリング、外部研修など多様な方法を組み合わせます。育成の状況を上司や人事、キャリアコーチが定期的に確認し、必要に応じて柔軟に内容を見直すことが重要です。
定期的に候補者の成長度合いや組織の状況変化を踏まえ、サクセッションプランが機能しているかを確認し、調整します。例えば、候補者が適切に育っているか、候補者の状況に変化はないか、重要ポストに変化がないか、部門責任者が役割を果たしているか、施策が経営や人事に貢献しているかなどをチェックします。必要に応じて対象ポストや候補者、育成方針の見直しを行い、仕組み全体の精度と実効性を高めていきます。ここでは経営層と人事が密に連携し、柔軟に対応することが求められます。
導入にあたっての注意点
一方で、サクセッションプランの導入にあたっては以下の点に注意が必要です。
おわりに
サクセッションプランは未来の経営リーダーを育てる最も重要な人事施策の一つです。しかしながら、次の社長候補者を客観的な選抜と計画的な育成によって万全に準備できている企業は極めて少ないことが現状です。突発的に経営陣の交代を余儀なくされる場合のみならず、経営環境の変化に対応できる経営陣を育成し、円滑な後任への引継ぎを行うことは企業価値を向上させるうえで極めて重要です。
Insight Platformは、現在の複雑な経営環境に適応できる経営リーダー候補者の選抜に適したアセスメントツールです。オンラインで簡便に実施できるパーソナリティ測定と職務経験サーベイで、経営リーダーとしてのポテンシャルを測定し、人材選抜に対する有用なインサイトを提供します。
参考:Succession Planning: What the Research Says
Most organizations aren’t prepared. by Eben Harrell
From the Magazine (December 2016)
https://hbr.org/2016/12/succession-planning-what-the-research-says
はじめに
SHLのアセスメントは、民間企業だけでなく様々な公的機関や法人を含め、組織やチームのパフォーマンスを最大限にいかすために活用されています。ビジネス場面の利用だけでなく、過去には、南極レースに参加するメンバー選抜やカーレーサー発掘プロジェクトのサポートなどにSHLアセスメントが活用された事例があります。
今回のコラムでは、SHLグループ本社があるイギリスの海軍におけるリーダー研究をご紹介します。
イギリス海軍のリーダー選抜の課題
イギリス海軍は、上級士官に関してある課題を抱えていました。海軍は、イギリスの他の民間組織と異なり、人事異動や再配置が頻繁に起こります。通常、上級士官が同じ役職にとどまるのは約3年ほどです。これまで、イギリス海軍は任命・昇進の決定を、ほぼ例外なく年次評価報告書のみに依存していました。
この方法は、個人業績の満足度を伝えるには効果的ですが、特定の役職に誰がより適しているか、個々の卓越した強みがどの分野にあるかを区別するにはあまり役に立たないという課題がありました。
今回研究を行ったのは、30年以上イギリス海軍に勤務する経験を持つマイク・ヤング大佐(博士・MBE;大英帝国勲章メンバー)で、イギリス海軍のリーダーシップ評価および育成アドバイザーとして、上級士官のサイコメトリックアセスメント実施、コーチング、能力開発施策の設計を行っています。
上級士官にSHLアセスメントを実施
今回の研究ではイギリス海軍の上級士官における①パフォーマンス評価、②ポテンシャル(将来性)、③昇進率と一般知能、パーソナリティ、モチベーションリソースとの関連性を調査しました。
具体的には、300名を超えるOF5からOF7(大佐から少将と同等の英国海兵隊の階級を含む)の正規士官に、SHLアセスメントである一般知能検査G+、パーソナリティ検査OPQ32r、意欲検査MQ、を受検してもらいました。
イギリス海軍では、成功するリーダーとそうでないリーダーを組織内で独自に研究して確立した「指揮・リーダーシップ・管理(the Command, Leadership, and Management (CLM))」のコンピテンシーモデルを持っており、このモデルにOPQとMQの関連因子をマッピングし、対象者の各種評価項目とSHLアセスメント結果との関連性を分析しました。
CLMコンピテンシーモデル:
Conceptualize(概念化):達成すべきことを理解し、それを明確に伝える
Align(方向性を合わせる):コントロール可能な行動に集中する
Interact(関わり合う):他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する
Create Success(成功を創造する):習慣的に成果を出す
結果
各因子と有意に相関があった項目は以下の通りです。
CLMモデル | SHLアセスメントのマッピング | ①パフォーマンス | ②ポテンシャル | ③昇進率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
Conceptualize (概念化) 達成すべきことを理解し、それを明確に伝える |
G+ | 一般知能 | 高 | |||
OPQ | 創造的 | 高 | ||||
OPQ | 堅実 | 低 | – | |||
OPQ | 概念性 | 高 | ||||
OPQ | 好奇心 | 高 | ||||
OPQ | 律義 | 低 | − | |||
MQ | 興味 | 高 | + | |||
MQ | 柔軟性 | 高 | + | |||
Align (方向性を合わせる) コントロール可能な行動に集中する |
OPQ | 几帳面 | 高 | + | ||
OPQ | 説得性 | 高 | + | |||
OPQ | 先見性 | 高 | + | |||
OPQ | 指導性 | 高 | ++ | |||
OPQ | 批判的 | 高 | ||||
MQ | 権限 | 高 | ||||
MQ | 活力 | 高 | ||||
Interact (関わり合う) 他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する |
OPQ | 人間への関心 | 高 | ++ | ||
OPQ | 協議性 | 高 | ++ | |||
OPQ | 友好性 | 高 | ||||
OPQ | 抑制 | 低 | ||||
OPQ | 独自性 | 低 | ||||
MQ | 帰属 | 高 | ||||
MQ | ステータス | 低 | − | |||
Create Success (成功を創造する) 習慣的に成果を出す |
MQ | 達成 | 高 | + | + | |
MQ | 競争 | 高 | + | |||
MQ | 没頭 | 高 | ++ | ++ | ||
MQ | 失敗の恐怖 | 高 | + | ++ | ||
MQ | 昇進 | 高 | ++ | ++ | ||
MQ | 快適と安定 | 低 | − | |||
MQ | 成長 | 高 | ++ |
全体として、マッピングされたアセスメントの各因子とパフォーマンス・ポテンシャル・昇進率には相関がみられ、CLMモデルがこれらの予測に有用であることが分かりました。
分解してみていくと、MQは優れた予測因子であることが示され、昇進の早い上級士官の重要な差別化要因であることが明らかになりました。これは、リーダーが「どう行動するか(How)」だけでなく、「なぜそう行動するのか(Why)」を理解することの重要性を浮き彫りにしています。こうした深い内面の動機を無視すると、一見有能に見えても、長期的に成功するための“内なる原動力”を欠いた人物を誤って昇進させてしまうリスクがあります。
いずれの指標とも関連性が見られなかった一般知能については、高次の思考を支える要素ではあるものの、それだけでは「優れたリーダー」と「少し良いリーダー」とを区別する決め手にはならないと解釈されました。むしろ、一般知能は“ある水準までは必要な基礎的能力”とされ、それ以上になると、より重要なのは他の要素であるようだと大佐は述べています。
これらの結果を用いて、イギリス海軍では、データに基づいたサクセッションプランや能力開発プランの意思決定を行えるようになりました。SHLではイギリス海軍に向けてオリジナルのリーダーシップ開発レポートも作成し、支援しています。
おわりに
軍組織のリーダーにおけるサイコメトリックアセスメントとの関連性が示された興味深い事例です。ビジネスの組織とはミッションも体制も異なることは明らかですが、今回の上級士官のリーダー研究結果はビジネス場面にも通じる「リーダーとしての素養」として頷ける部分もあります。
民間企業であれ、軍隊であれ、組織運営は人が行う以上、介在する人の能力やスキル、意欲、人同士(チーム)の組み合わせで成果差が出ます。この捉えづらい人の能力やスキル、意欲を可視化する当社のアセスメントツールは、組織パフォーマンスの向上に深く貢献できます。
なお、論文の中では、今回の研究でなぜSHL社のアセスメントを評価ツールとして採用したか、信頼性や妥当性などに言及しながら説明しています。当社の評価ツールとしての品質を知る上でも参考になる論文かと思います。
参考文献:
Anchoring Talent Decisions in Science: Insights from Senior Leader Research in the Royal Navy
The Royal Navy Modernizes Leadership Development and Selection with SHL
General intelligence, personality traits, and motivation as predictors of performance, potential, and rate of advancement of Royal Navy senior officers
タレントマーケットプレイスとは何か
タレントマーケットプレイスは、企業内に「社内労働市場」を形成することを目的とした社内プラットフォームです。このプラットフォームは、従業員一人ひとりが持つスキルや経験、キャリアの目標、興味関心といった「タレント」の情報と、社内にある様々な業務やプロジェクト、空きポジション、さらには社内副業や勉強会といった「機会」を、AIなどの技術を活用して効果的にマッチングさせる仕組みを提供します。
このプラットフォームは、単に従業員の人材情報を一元管理・可視化することを主な目的とした、従来のタレントマネジメントシステムとは異なる概念を持っています。タレントマネジメントシステムが人事部門などによるデータ管理・分析に重点を置くのに対し、タレントマーケットプレイスは、タレント(従業員)と機会の能動的なマッチングを促進し、企業と従業員双方にとっての「適材適所」をより高い精度で実現することを目指します。これにより、従業員は自身の意志に基づいた多様な機会を探求し、企業は社内リソースを最適に活用できるようになります
タレントマーケットプレイスがもたらす効果
タレントマーケットプレイスは、企業と従業員の双方にメリットをもたらします。主な効果は以下の通りです。
タレントマーケットプレイスとSHLアセスメントとの親和性
このタレントマーケットプレイスの仕組みは、SHLのアセスメントと組み合わせることでより強力な効果を発揮します。TMP導入のフェーズに応じて最適なソリューションをご提案いたします。
おわりに
このタレントマーケットプレイスという仕組みは、近年日本でも導入を検討される企業が増えています。SHLでは組織の活性化・人材の流動性を高める様々なソリューションを提供しておりますので、ご関心がある方は是非お問い合わせください。
人材要件定義とは?
選抜、配置、任用、能力開発などの人事施策を行うには適切な基準が必要です。人材要件を定義することで適切な基準と運用方法がわかります。
アセスメントデータの分析、高業績者へのインタビューなどを通じて各ポストの職務遂行に必要なコンピテンシーを特定します。調査対象の設定、調査(適性データ収集、データ分析、インタビュー、アンケートなど)の実施、コンピテンシーの決定、コンピテンシーの活用を支援します。
人材要件定義 2つのサービス
人材要件定義支援
特定の職種やポスト等の人材要件を定めるために、アセスメントを用いたデータ分析や経営者やキーポジションの方にインタビューを行います。定量的なデータと定性的なインタビューの情報を統合し、人材要件定義を作成します。今後必要とされる自社独自の人材要件とコンピテンシーのマッピング支援も行います。データ分析ではオリジナル尺度の作成も可能です。
人材要件定義のノウハウ提供
自社で要件定義を行うためのインタビュースキルトレーニングやアセスメントデータの統計分析手法のトレーニングを行います。当社の豊富な実績を元に、実践的なスキルや手法を学ぶことができます。 自社で主体的に要件定義を行うことで、今後の要件の変化にもすばやく対応することが可能です。
導入シーン
データを元に科学的に求める人物像を定義できます。経営戦略の転換や新たな事業で求める人材が変化した場合も、未来に必要な人材要件の定義が可能です。
社内の人材選抜もその後のパフォーマンスの観点から妥当な選抜基準を作成することが可能です。
社内の各ポストに求められる人材要件と社員の人材情報を結びつけ最適な配置を実現します。
Insight Platform(Contextual Leadership)は、コンテクストと呼ばれるリーダーを取り巻く、よく直面する課題や外部環境の経験値とポテンシャルを掛け合わせて、一目で後継人材を可視化するサクセッションプランの支援ツールです。
測定項目 | パーソナリティ(OPQ32r) 経験サーベイ |
---|---|
所要時間 | 40分 |
Insight Platform(Contextual Leadership)とは
キーポストの要件を設定し、候補者にアセスメントを行うことで、経験の有無×パーソナリティの適性、2つの観点から候補者を可視化します。
リーダーの成否にかかわるコンテクストという観点を取り入れることで、組織がより正確にリーダーを発掘、評価、選抜、育成できるようにします。
SHLが行った大規模な調査で、リーダーの成否にコンテクスト(環境や文脈)が重要な要素であることが分かりました。このコンテクストを考慮することで、画一的なアプローチをするよりも平均で4倍以上正確にリーダーを選抜できます。
事業環境やそこで求められるリーダー像が変化してもコンテクストを設定しなおすことですぐに新たな候補者を特定することができます。柔軟かつ多様なリーダー像を素早く定義・発掘してアジャイルな組織体制を支援します。
Insight Platform(Contextual Leadership)
パーソナリティと経験を測定します。
3つの行動に関する記述の中から、自分に最もよく当てはまっているものを1つ、次に最も当てはまっているものを1つ選びます。職務に関係する「受検者の典型的な、または好む行動スタイル」を測定し、各種行動特性の予測も行います。
Insight Platform(Contextual Leadership)が解決する課題
タレントの中居正広氏と女性とのトラブル報道に端を発する問題をめぐり、フジテレビは1月27日2度目の記者会見を行いました。10時間を超える異例の会見で私が感じたことは、経営トップの判断、言葉、行動により会社はいとも簡単に崩壊してしまうということでした。改めて経営トップの判断力の重要性を認識するとともに、いつ何時でも経営陣を刷新できるよう後継者を準備しておくこと、つまりサクセッションプランはすべての企業の最重要課題であると強く認識しました。
今回の問題はサクセッションプランの必要性を社会にはっきりと示す事例になりました。
経営陣の能力は企業に大きな影響を与えます。今回は経営幹部の判断がフジテレビの信用を失墜させ、会社崩壊の危機に追い込みました。
SHLのグローバルな調査では、CEOの後任探しが難航すると平均18億ドルの株主価値を失い、さらにCEOの指名が長期化すると業績が悪化すると指摘されています。今回の場合、社長の交代は円滑に行われましたが会長の後任は不在のままです。これはサクセッションプランが不十分であったことの証左と言えます。そしてこの体制はフジテレビの業績にさらなる悪影響を及ぼすでしょう。もし、会長不在が何ら影響を及ぼさないとしたら、今まで会長職を設けていたことの妥当性が問われます。
経営陣の刷新が絶対必要とは思いませんが、今回経営陣を総入れ替えしなかったことと後継者の準備が不十分であったことは関連していると考えます。
昨今、日本ではサクセッションプランを導入する大手企業が増えています。導入企業には共通の問題意識があります。さらなる成長のため、生き残りのため、経営を改革する必要に迫られているという点です。新しい事業を作り育て、経営を刷新する必要がある。だから、新しい理想とビジョンを実現するリーダー候補を選び育てるのです。
つまり、サクセッションプランは企業を存続させるために円滑な経営陣の引継ぎを行うためだけの手段ではなく、より高い理想、大きな目標に向かって企業を成長させるための手段とも言えます。
理想とビジョンを示すことができない経営陣にとってサクセッションプランは邪魔なものに映るでしょう。自らの権力維持を危うくするための取り組みに他ならないからです。
サクセッションプランを考えるにあたって「コンテクスト」について説明します。
コンテクストとはリーダーが活動する文脈的な環境、課題と言ってもいいでしょう。SHLはこれを4つ要素(役割、チーム、組織、外部環境)で捉えています。同じ企業であってもリーダーの役割によって異なる課題を持っています。つまり、コンテクストが異なるのです。各リーダーポストのコンテクストを知ることで、各ポストで直面する課題を乗り越える能力と経験を持つ候補者が誰であるかをきめ細やかに特定できるようになります。
このコンテクストを発見するためにSHLはグローバルリーダー9000名に対して3年間をかけた研究を行いました。この研究の結果、リーダーを登用する際にコンテクストを考慮すると、コンテクストを考慮しない時に比べて4倍以上の確率で正しい人材を登用できることがわかりました。また、製品、戦略、チーム、組織など何百のコンテクストの中から、どの階層のリーダーにおいてもパフォーマンスに影響を与える27のコンテクストを発見しました。
SHLがリーダーの成功に影響を与える27のコンテクストを4つの分野に分けました。
全27のコンテクストについてはコラム「リーダーシップコンテクストの選び方~サクセッションプランの実践」をご覧ください。
加えて、人材の特徴(パーソナリティ)がどのようなコンテクストに影響を及ぼすかを突き止めました。つまり、個人のパーソナリティとコンテクストとの適合度を見ることで、リーダーの成功の予測精度を大幅に向上させたのです。リーダーポストのコンテクストを特定すれば、候補者の中からそのポストで最も成功する可能性が高い人を選抜できます。不確実な未来に対応するため我々は複数の戦略上のシナリオをもっています。このような場合、戦略シナリオごとにリーダーとして最適な人材を準備することができます。コンテクストを用いることで不確実な未来に対応し、複数のシナリオを想定した後継者の準備が可能となります。
今回の会見で、清水賢治新社長の選任理由はフジテレビの編成、経営企画、他社、持ち株会社とオールラウンドな経験があること、と説明がありました。他の候補者との比較や決め手となった個別的な事情の説明はありませんでしたし、その点を質問する記者もおりませんでしたので、詳細な検討内容は不明ですが、現在の危機的状況を打開できるリーダーシップを持っていることが理由として述べられていなかったことに一抹の不安が残ります。
27のコンテクストの中から、私が考えるフジテレビ経営陣の現在のコンテクストは以下の7つです。
27のコンテクストの中ですべてのリーダーのパフォーマンスに悪影響を及ぼすものが4つあるのですが、そのうちの2つがフジテレビ経営陣のコンテクストに含まれます。その2つとは、頻繁なリーダー交代に適応する、不確実性が高くあいまいな状況で業務を遂行する、です。これらのコンテクストに直面するリーダーの多くが実際にパフォーマンスの問題に悩まされています。ましてや既に逆境にいるフジテレビの経営リーダーですから、これらから道は茨の道であることは確実です。
今回のフジテレビ問題ははからずも多くの企業に経営リーダー選抜の重要性を深く考えさせる機会となりました。VUCAの時代の経営リーダーは、今まで経験したことのない想定外の問題に対応し、新しい課題を遂行していくことが求められます。
私たちは日本企業が新しいリーダーを発掘し、育成するためサクセッションプランに貢献いたします。