なぜ「好きな仕事」は見つからないのか?
「自分に合った仕事がわからない」「キャリアの方向性にモヤモヤを感じる」。そう感じている方は、決して少なくありません。また、人事担当者や上司として若手社員や学生からこのような相談を受けることがあるかもしれません。TED Talk「How to find work you love(好きな仕事の見つけ方)」でスコット・ディンスモア氏は、「自分の強み、価値観、経験を理解することが、情熱を持てる仕事を見つける鍵である」と語っています。その言葉どおり、「好きな仕事」は外に目を向けて探すのではなく、まず自分自身を深く知ることが欠かせません。
今回は、キャリアの方向性を考えるうえで重要となる「3つの自己理解の視点」をご紹介します。
パーソナリティ
一つ目の視点はパーソナリティです。日本語で「性格」と訳されます。SHLでは、ある人の「典型的なまたは好む行動スタイルである」をパーソナリティとして定義しています。パーソナリティとはついつい取ってしまう行動のクセです。
たとえば、「人前で緊張せずに話すことができる」「細かい作業を続けるのが苦にならない」など、人にはそれぞれ、「無理なくできること」「つい避けたくなること」があります。この行動そのものに良し悪しはありませんが、仕事が求める性質が限定された場合、仕事の向き・不向きを判断することが可能になります。
自分が苦にならずやっている行動はどんなものか?自然と行動できる他の人より得意なことは何か。これを明らかにすることは、自分自身の適性やキャリアを考えていく上で重要な視点になります。
価値観
二つ目は価値観です。価値観とは、「自分が何に意味を見出すか」「どんな人生を送りたいか」といった、行動の背景にある人生の目標や方向性です。自分の価値観が仕事や組織と一致すれば、その仕事に意味を見出し意欲も湧きます。逆に、価値観の方向性が異なる場合、次第に意欲をなくしてしまいます。価値観の相違は意欲や行動に影響を与えます。
たとえば、ある人は、「他者に認められるようなことを達成し、成功し、尊敬され、確固とした評判を得ること」に重きを置くかもしれません。別の人は「知らない世界に飛び込み、新しい経験をすること」を重視するかもしれません。このような価値観は、どんな仕事に満足感を得られるか、どんな職場が自分に合うかといった判断に大きく影響します。
自分が自然にとる行動のクセ(=パーソナリティ)がいかに適合しているかだけでなく、自分の価値観に合う「意味のある働き方」であるかという視点も、自分らしいキャリアを描く上で大きなヒントになります。
意欲
三つ目は意欲です。意欲とは、行動にエネルギーを与えたり、導いたり持続させたりする原動力のことです。キャリアの視点で言えば、仕事環境がその人のやる気を引き出すか/失わせるかの個人差を指します。忙しく騒がしい職場を好む人もいれば、落ち着いている静かな職場を好む人もいます。仕事環境がその人の好みに合う度合いによって、やる気が刺激される度合いが変わってきます。
仕事を遂行する能力が備わっていて、自分の価値基準と合致していても、やる気をなくしてしまっていたら、仕事でのパフォーマンスを十分に発揮することはできません。
仕事のどういう環境、どういった場面で自分の行動のアクセルがかかるのか、あるいはブレーキが踏まれるのか、これらを明らかにすることで、自分がどんな環境でよりやる気を感じられるかが見えてきます。
自分らしいキャリアの第一歩は「自分を知ること」
一口に「自分自身を知る」と言っても、様々な切り口があります。まずはこれまでの経験を振り返りながら、
- 自分はどんな行動を心地よく感じるのか?(パーソナリティ)
- 何に意味ややりがいを感じるのか?(価値観)
- どんなときに自然とやる気がでるのか?(意欲)
という視点でより深く自分を見つめなおして、言語化することで、自分自身によりフィットしたキャリア選択のヒントが得られるかもしれません。
はじめに
SHLのアセスメントは、民間企業だけでなく様々な公的機関や法人を含め、組織やチームのパフォーマンスを最大限にいかすために活用されています。ビジネス場面の利用だけでなく、過去には、南極レースに参加するメンバー選抜やカーレーサー発掘プロジェクトのサポートなどにSHLアセスメントが活用された事例があります。
今回のコラムでは、SHLグループ本社があるイギリスの海軍におけるリーダー研究をご紹介します。
イギリス海軍のリーダー選抜の課題
イギリス海軍は、上級士官に関してある課題を抱えていました。海軍は、イギリスの他の民間組織と異なり、人事異動や再配置が頻繁に起こります。通常、上級士官が同じ役職にとどまるのは約3年ほどです。これまで、イギリス海軍は任命・昇進の決定を、ほぼ例外なく年次評価報告書のみに依存していました。
この方法は、個人業績の満足度を伝えるには効果的ですが、特定の役職に誰がより適しているか、個々の卓越した強みがどの分野にあるかを区別するにはあまり役に立たないという課題がありました。
今回研究を行ったのは、30年以上イギリス海軍に勤務する経験を持つマイク・ヤング大佐(博士・MBE;大英帝国勲章メンバー)で、イギリス海軍のリーダーシップ評価および育成アドバイザーとして、上級士官のサイコメトリックアセスメント実施、コーチング、能力開発施策の設計を行っています。
上級士官にSHLアセスメントを実施
今回の研究ではイギリス海軍の上級士官における①パフォーマンス評価、②ポテンシャル(将来性)、③昇進率と一般知能、パーソナリティ、モチベーションリソースとの関連性を調査しました。
具体的には、300名を超えるOF5からOF7(大佐から少将と同等の英国海兵隊の階級を含む)の正規士官に、SHLアセスメントである一般知能検査G+、パーソナリティ検査OPQ32r、意欲検査MQ、を受検してもらいました。
イギリス海軍では、成功するリーダーとそうでないリーダーを組織内で独自に研究して確立した「指揮・リーダーシップ・管理(the Command, Leadership, and Management (CLM))」のコンピテンシーモデルを持っており、このモデルにOPQとMQの関連因子をマッピングし、対象者の各種評価項目とSHLアセスメント結果との関連性を分析しました。
CLMコンピテンシーモデル:
Conceptualize(概念化):達成すべきことを理解し、それを明確に伝える
Align(方向性を合わせる):コントロール可能な行動に集中する
Interact(関わり合う):他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する
Create Success(成功を創造する):習慣的に成果を出す
結果
各因子と有意に相関があった項目は以下の通りです。
CLMモデル |
SHLアセスメントのマッピング |
①パフォーマンス |
②ポテンシャル |
③昇進率 |
Conceptualize (概念化) 達成すべきことを理解し、それを明確に伝える |
G+ |
一般知能 |
高 |
|
|
|
OPQ |
創造的 |
高 |
|
|
|
OPQ |
堅実 |
低 |
|
|
– |
OPQ |
概念性 |
高 |
|
|
|
OPQ |
好奇心 |
高 |
|
|
|
OPQ |
律義 |
低 |
|
|
− |
MQ |
興味 |
高 |
|
|
+ |
MQ |
柔軟性 |
高 |
|
|
+ |
Align (方向性を合わせる) コントロール可能な行動に集中する |
OPQ |
几帳面 |
高 |
+ |
|
|
OPQ |
説得性 |
高 |
|
|
+ |
OPQ |
先見性 |
高 |
|
|
+ |
OPQ |
指導性 |
高 |
|
++ |
|
OPQ |
批判的 |
高 |
|
|
|
MQ |
権限 |
高 |
|
|
|
MQ |
活力 |
高 |
|
|
|
Interact (関わり合う) 他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する |
OPQ |
人間への関心 |
高 |
|
|
++ |
OPQ |
協議性 |
高 |
|
|
++ |
OPQ |
友好性 |
高 |
|
|
|
OPQ |
抑制 |
低 |
|
|
|
OPQ |
独自性 |
低 |
|
|
|
MQ |
帰属 |
高 |
|
|
|
MQ |
ステータス |
低 |
|
|
− |
Create Success (成功を創造する) 習慣的に成果を出す |
MQ |
達成 |
高 |
|
+ |
+ |
MQ |
競争 |
高 |
|
|
+ |
MQ |
没頭 |
高 |
++ |
++ |
|
MQ |
失敗の恐怖 |
高 |
+ |
++ |
|
MQ |
昇進 |
高 |
|
++ |
++ |
MQ |
快適と安定 |
低 |
− |
|
|
MQ |
成長 |
高 |
|
|
++ |
高:当該因子の高得点の特徴を持つ
低:当該因子の低得点の特徴を持つ
++/+ 有意に正の相関がある
–/- 有意に負の相関がある
※論文のTable 6を元に筆者が作成
- パフォーマンスとの関連性:
(OPQ)仕事を最後までやり遂げる
(MQ)仕事に精力をつぎ込む、失敗しないために活動的になる、リスクがあっても気にしない
- ポテンシャル(将来性)との関連性:
(OPQ)主導権を取ることを好む
(MQ)目標を達成しないと気が済まない、失敗しないために活動的になる、昇進/キャリアアップによって意欲があがる
- 昇進率との関連性:
(OPQ)新しいやり方を好む、ルールに縛られない、交渉を好む、長期的な視点を持つ、人を分析する、広く相談して意思決定する
(MQ)変化や刺激を好む、流動的な環境を好む、目標を達成しないと気が済まない、人と比較されることで成果を出す、昇進/キャリアアップによって意欲があがる、能力開発やスキルアップで意欲があがる
全体として、マッピングされたアセスメントの各因子とパフォーマンス・ポテンシャル・昇進率には相関がみられ、CLMモデルがこれらの予測に有用であることが分かりました。
分解してみていくと、MQは優れた予測因子であることが示され、昇進の早い上級士官の重要な差別化要因であることが明らかになりました。これは、リーダーが「どう行動するか(How)」だけでなく、「なぜそう行動するのか(Why)」を理解することの重要性を浮き彫りにしています。こうした深い内面の動機を無視すると、一見有能に見えても、長期的に成功するための“内なる原動力”を欠いた人物を誤って昇進させてしまうリスクがあります。
いずれの指標とも関連性が見られなかった一般知能については、高次の思考を支える要素ではあるものの、それだけでは「優れたリーダー」と「少し良いリーダー」とを区別する決め手にはならないと解釈されました。むしろ、一般知能は“ある水準までは必要な基礎的能力”とされ、それ以上になると、より重要なのは他の要素であるようだと大佐は述べています。
これらの結果を用いて、イギリス海軍では、データに基づいたサクセッションプランや能力開発プランの意思決定を行えるようになりました。SHLではイギリス海軍に向けてオリジナルのリーダーシップ開発レポートも作成し、支援しています。
おわりに
軍組織のリーダーにおけるサイコメトリックアセスメントとの関連性が示された興味深い事例です。ビジネスの組織とはミッションも体制も異なることは明らかですが、今回の上級士官のリーダー研究結果はビジネス場面にも通じる「リーダーとしての素養」として頷ける部分もあります。
民間企業であれ、軍隊であれ、組織運営は人が行う以上、介在する人の能力やスキル、意欲、人同士(チーム)の組み合わせで成果差が出ます。この捉えづらい人の能力やスキル、意欲を可視化する当社のアセスメントツールは、組織パフォーマンスの向上に深く貢献できます。
なお、論文の中では、今回の研究でなぜSHL社のアセスメントを評価ツールとして採用したか、信頼性や妥当性などに言及しながら説明しています。当社の評価ツールとしての品質を知る上でも参考になる論文かと思います。
参考文献:
Anchoring Talent Decisions in Science: Insights from Senior Leader Research in the Royal Navy
The Royal Navy Modernizes Leadership Development and Selection with SHL
General intelligence, personality traits, and motivation as predictors of performance, potential, and rate of advancement of Royal Navy senior officers
玉手箱Ⅲとは、SHLが提供する受検者の総合的な適性をより短時間で測定するWeb適性検査です。職務パフォーマンスに関わる言語・計数・英語の理解力を扱った知的能力と、作為的な回答がしにくい形式で仕事に関わる30のパーソナリティを測定します。マークシートテストIMAGESのWeb版です。玉手箱Ⅲの帳票は、ご利用用途にあわせて、能力特性予測と面接シートを兼ねた「面接ガイド版形式」、面接前の短い時間で受検者のイメージが浮かぶように設計された「コメント形式」の2つのバージョンから選択可能です。
ダウンロードはこちら
コンサルティング
人材要件定義コンサルテーション
職務遂行に必要なコンピテンシーをアセスメントデータ分析、インタビュー等で特定します。